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日本は「オバマ・ショック」に備えよ

記者の目:日本は「オバマ・ショック」に備えよ=笠原敏彦(毎日新聞)

 1人の指導者の誕生に、世界がこれほど期待を寄せたことがあっただろうか。20日に就任するオバマ次期米大統領のことだ。ただ、日本では少々、事情が異なる。米国の「ハート」を中国に奪われはしないかと、不安なのである。大胆に予測するなら、その懸念は的中し、日本外交は緩やかな「オバマ・ショック」に見舞われ、歴史的には日米同盟の分水嶺(ぶんすいれい)として振り返られることだろう。

 オバマ外交を占う上で示唆的な話を紹介したい。アジア外交担当として次期政権入りが確実視される米国の知人から聞いた話だ。

 民主党の大統領候補指名争いが続いていた昨年3月、オバマ陣営とヒラリー・クリントン(次期国務長官)陣営の外交スタッフ約40人が南部フロリダ州のホテルに招集された。いずれも政権発足時には外交を動かす政府高官候補たち。目的は、民主党政権誕生に備えて「外交政策の一本化」を図ることだった。

 数日間の合宿論議でテーマとなったのは中国、ロシア、インドへの外交政策だった。この3カ国に焦点が絞られたのは「国際秩序の行方に影響を及ぼす国々」だからで、日本は「中国政策を論議する文脈でしか語られなかった」という。

 この事例をもって、米国の日本軽視を論じるつもりは毛頭ない。米国にとって日本は重要である。ただ、「重要」の意味は、米国の世界戦略の中で相対的にとらえなければならない。

 昨春までワシントンで米外交を担当し、外国首脳らがホワイトハウスをひっきりなしに訪れるのを見ながら、こんな日米の相関図を思い描くようになった。

 アメリカは超モテ男で、世界中から熱い視線を集める。この血の気が多いモテ男の周りには、思わせぶりな美女からしつこいストーカータイプまで、手を焼く面々が多い。ガールフレンド(同盟国)も数多いが、日本はさしずめ、ひたすら尽くす献身的タイプだ。たまに耳元で「日本は大事」とささやいておけば、3歩下がってついてくる。

 笑うなかれ。米国が昨年10月、北朝鮮のテロ支援国家指定を解除した経緯を思い起こしてほしい。日本が「指定解除しないで」と懇願し続け、ブッシュ大統領も「拉致問題は忘れない」と繰り返していたのに、あっけなく指定は解除された。それでも日本は懲りもせず「日米関係の強化」を呪文のように唱え続けているのが現実ではないか。

 話は逸脱したが、オバマ政権のモテぶりはギネスブック級になりそうで、日本はジェラシーを募らせそうだ。逆説的だが、国際社会のオバマ氏への期待の高さは、ブッシュ政権下で米国のパワーの巨大さを嫌というほど思い知ったことの裏返しである。だから、一般にいう「米国の一極支配」の終幕と、「世界の多極化」という構図は必ずしも正確ではないだろう。

 世界の現状は、唯一の超大国・米国を頂点に欧州やロシア、中国、インドなどに「パワー・センター(極)」の萌芽(ほうが)が分散しているというのが実態に近い。そして、その潜在的な国力からして確実に米国と並ぶ「極」へ成長を続けているのが、中国である。

 米外交界の重鎮、リチャード・ハース外交問題評議会会長は米誌ニューズ・ウィーク新年号で指摘している。「新政権にとっての最重要課題は中国と対中外交である。米中関係次第で21世紀の世界はまったく違ったものになりかねない」。経済危機からイラン、北朝鮮の核問題、エネルギー危機まで世界が直面する問題は中国の協調なしには解決が困難なものばかりだ。

 米国の対中外交へのエネルギー傾注が必然かつ自明の理となった今、「(日米)安保堅持を叫んでいれば米外交において重要な位置付けを日本は得るという時代は終わった」(田中直毅国際公共政策研究センター理事長「中央公論」08年12月号)のである。

 日本は第二次大戦後、日米同盟のお陰で世界第2の経済大国になり得た。しかし、その過剰な依存のせいで経済力を政治・外交力に転化できなかった。米国の一極構造が溶解し始める中で、日米同盟に依存した世界観で外交を続けるなら、日本の国際的な地位は劇的に低下するだろう。

 日本が取るべき道は、対米協調を基調としながらも、アジアや国際機関を舞台に外交の多極化を積極的に進めることである。その際、将来の米中二極時代も視野に入れ、その流れにいかに絡み、どう国益を確保していくかという戦略的視点が欠かせない。

 例えば、日米中3カ国による定例首脳会議の設置に向けて日本がイニシアチブを取り、得意とする環境・エネルギー分野、アフリカ問題などで積極的に提言することで、米中双方への影響拡大を狙うというのも選択肢の一つだろう。(外信部)

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